On the way home
statement
夜の風景を描く方法は、極端に言えば一面を黒に塗りつぶしてしまうだけで十分なような気がします。
けれどもそこに明かり窓を登場させると、「外」と「家の中」の境界線が生まれ、黒の中にさまざまな家が登場し、暗闇の中に確かに存在している町が浮かび上がってきます。
四角い窓の向こう側に見える家の中の様子はとてもあたたかいものに見えて、自分の家ではないのに、何故かいつも恋しいような懐かしいような気持ちになってしまうのです。
Transparent room
statement
いつものように電車の窓から外の景色を眺めていた時、ふいに違和感のようなものを感じ、思わず目を奪われた。
ある建物(古いビルだった気がする)の窓が開いていて、向こうの景色が見えたのだった。見えるはずのない、建物の向こう側に見えた風景。
その時私が感じたのは、人が作り出した空間の小ささ(面積的なものでなく、頼りなさのほうかもしれない)と、突き抜けるような開放感だった。
景色はどこまでも続いている。見えていないだけで、視覚や意識を通り越した遠くまですり抜けて行く。 そして建物の中の空間は、どんなに完全に区切ったかのように思えても、風景からかりそめに切り取っただけのものかもしれないということ。
「Transparent room」では、窓から窓へ通り抜けて行く途中の小さくはかない空間と、その先にあるどこまでも広がっていく風景を描いている。
Stars on the ground
statement
「星が見えなくなった」
小さい頃からすでに、夜の景色は昔の様子とは変わっているようでした。
それはあたかも、世の中が良くない方向へ向かっている象徴みたいに言われています。
今の暮らしの中で、満天の星空の下に居る自分を想像することは難しいのかもしれません。なぜなら夜の景色を思い描く時、星空よりもまず無数にきらめく街の灯りが浮かんでくるからです。
それでも街の灯りひとつひとつに小さくもあたたかな人の暮らしがあるのだと思うと、 星ひとつひとつの輝きよりも私にはいとおしく重みのあるものに思えます。
どちらがいいかなんて比べるものではないだろうし、星空の美しさを取り戻せるのならば、取り戻したいと思います。
ただ、街の灯りは優しい。 真っ暗な中あたたかい家への帰り道を照らし続けています。地上に輝く星みたいに。